淋しさだけが


この世では
淋しさだけが正しいのだ
さまざまな風が吹いては
雨の時も 晴天の時も
あったけれど やがて
誰もが通り過ぎていって
淋しさだけが残る
優しさに似た
淋しさだけが残る

君も通り過ぎた
あなたも通り過ぎた
おまえも通り過ぎた
あらゆる二人称に呼びかけても
それらはみな通り過ぎて
あとにはやっぱり
淋しさだけが残ってしまった

あの頃降っていた
さまざまな雨
あるいは さまざまな
日の照り方
風に揺らされたもの
地が揺れて
恐れとともにあった時
それらもすべて消えて
淋しさだけが
救いのように残る

もはや記憶のなかにそれらの
面影を残すのも
耐えられないほどに
淋しさは募り
それでも通り過ぎていったものたちの
残り香はまだあって
すべての実在を否定するかのように
それらへの叶えられない思慕をなおもくすぐりながら
曖昧なだけの
淋しさが残される

それが
淋しさだけを残すのが
人としての
最後の務め

やがて私も
いつか通り過ぎる
その時 そこにたたずんでいるだろう
あらゆる君や
あなたや
おまえに
淋しさだけを残すことが出来たら
私の生に悔いはないのだ
君たちの薄れてゆく記憶を刺激しては
やがて雨や風や日を送っていた空に
そのさらなる高みへと
逃げてゆく
そんな淋しさだけが
きっと正しいのだ


(二〇一七年二月執筆)


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