語り継ぐ


語り継ぐ。そのための言葉が宙吊りになって、揺れている。それは風が吹き
つける丘の上。球のようになった言葉が枯れ枝にぶら下がって、いまにも落
ちて、果実が潰れるように言葉は壊れてしまいそうに見える。

語り継ぐ。そのために費やされた言葉は新しさのなかに埋もれて、やがては
嘲笑われる。そんな言葉は無駄であると、冷たい風にさらされて軽さととも
に飛ばされる。伝統は稀釈され、薄く引き延ばされては舞う。

語り継ぐ。そのために使われる喉は乾いた風のなかで痛み、いまにも血反吐
を吐いてしまいそうに見える。それでも言葉は絞り出されようとするが、何
を知ろうとするのか。言葉はあらぬ方向へ逃げ出そうとする。

語り継ぐ。そのための言葉は誰のため。何か得体の知れない恐怖や禁忌のた
め。あるいは、継ぐことの叶わぬ時間を予測して、言葉は伝達を忘れて難解
になってゆく。夕暮とともに訪れる謎。暗喩に染まる暗い空。

語り継ぐ。そのための言葉は巡り、それとともに季節も巡っていった。名前
を持たない浮浪の祈りが地球の周回軌道にまで遠ざかって、葬られることな
く、行方不明のままで途切れてゆく。口伝の頼りなき淋しさ。

語り継ぐ。そのための言葉が宙吊りになって、揺れている。それは風ととも
に落ちるのか。継ぐべき場所にたどり着くことなく、死に絶えるのか。そん
な物語が人の噂のなかで、口から口へと語り継がれていった。


(二〇一六年十二月執筆)


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