腐乱


俺はゆっくりと
目に見えぬ速度で崩れていった
それはいやな臭いを発して
次第に人々の間で噂になっていった

もうそろそろいいだろう
そんな気持ちがどこかにあって
俺は怠惰ではなくむしろ積極的に崩れて
自らの欠片を周囲にばらまいていった

それからだ 妙なことが起こったのは
俺の腐りきった分子が閉め切った窓から滲み出て
風にさらわれてほうぼうの空き地に落ち
農地に落ちて いくつもの季節をまたぐと

それはゆっくりと
目に見えぬ速度で芽を出していった
それは実に旨そうな臭いを発して
やがて人々の食卓に乗りさえした

ああ 俺は人々に食べられているのだな
そんな意外な思いに胸を打たれていると
どこからかまた風が吹いてきて
それは別の人々の嘲笑を運んできた

俺はなおも腐り 崩れていきながら
この生死ではじめての吐瀉を体験した
それは自らのいやな臭いのためか 嘲笑のためか
もはやわからなくなっていた

それからゆっくりと
目に見えぬ速度で俺が再び形作られていった
それは変らずいやな臭いを発しながら
新たに吹きつける風に耐えようとしていた


(二〇一六年十月執筆)


戻る   表紙