仮初


たとえ何があろうとも
私たちは滅びない
すべてはただ通過してゆくだけ
頭上を瞬間よぎる
鳥の影のようなもの
それがどんなに大きな翼で地を覆おうとも
いくつもの死者の魂を乗せていたとしても
その残り香に懐かしみこそすれ
私たちが脅えることはない

たとえ何が起ころうとも
私たちは立ち止まりこそすれ
決して地の底で眠ることはない
風によって足下の砂がさらわれ
そうして崩れてゆく形
それらのばらまかれた欠片によって
再びまかれてゆくいくつもの種
そして柔らかい砂の地中に根を伸ばし
私たちは何度目かの築きを作ってゆく

たとえ何が失われようとも
私たちそのものは失われない
すべては仮のものであって
その時々で異なる色に染められて
初めての出来事であるかのように
錯覚されるだけだ
次々に起き上がる禍々しいものたち
それら一つ一つに笑いかけ
私たちは自らでさえも笑うのだ

たとえ何もなくとも
私たちはここに在る
見渡す限りの荒野であっても
見えない遠さには深い森がある
そこに蟄居するいくつものいのち
そして出来するいくつもの連鎖
すべての物事は本質へのたとえに過ぎない
私たちはかりそめであり
一つであり多数

そしてそれらすべてを合わせた
大きな一つであるならば


(二〇一六年九月執筆)


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