風と静物


ここに留まろうとするものに
その理由を訊くな
留まるものは留まり
去るものは去る
ただそれだけのこと
そのなかで大きなものは
留まっているように見えて
ゆっくりと去りつつあり
また新たなものが
ゆっくりと顕現しつつある
ただそれだけのこと
そのそれだけのことのなかに
内在する瞬間
絵のような
嚥下されようとして
息を止めようとする
苦い味のような
その一点を捉えて
あるいは
その一点だけに翻って
逆流する夜
涙腺から流れ去る
液体のような
いま
私はここにあって
それには何ら理由はないのだ
吹き抜けては
ゆっくりと
腐敗の時へにじり寄る
しらみのたかる
静かなものたち
そうしていることの
幸せさ
不幸せさ
ここから去ろうとするものに
その理由を訊いてはならぬ


(二〇一六年八月執筆)


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