絵画のように


ただ 通り過ぎてゆくだけのすべてが
いまもまた 僕たちの前を
僕たちに触れずに通り過ぎてゆく
そして 何も置いていってはくれない

いつもと同じだ
慣れ親しんだことだ
だから淋しいのだ
僕たちは淋しいのだ

でも その淋しさが
世界を美しくする
淋しさが 僕たちに
世界を美しく見せる

すべては通り過ぎていって
僕たちにかすりもせずに
ただ 甘いにおいだけを残して
そして 僕たちはそれを遠く見つめていて

あそこを歩いている人たちも
あの山の上に浮かぶ雲も
すべては美しく淫らで
とてつもなく いのちでしかなくて

だから淋しいのだ
僕たちは淋しいのだ
その美しさのなかにある
淋しさを見つけてしまうのだ

それは 歌やメルヘンというには
あまりにもどぎつくて
あまりにも生々しく傷ついていて
生理的に嫌な感じがしていて

いつもと同じだ
慣れ親しんだことだ
だから美しいのだ
だから淋しいのだ

まもなく夕立になって
その雨に降られても
誰もが美しくて なにかもが
陰惨にいのちでしかなくて

そんなふうに感じてもなお
僕たちは通り過ぎられる
僕たちはその雨にさえも
濡れることが許されずに

その悲惨への予感ですらも
その美しさのなかにあって
ただ 通り過ぎてゆくだけのすべては
美しく淋しい一枚の 絵画のように


(二〇一六年八月執筆)


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