日常


なぜそんなに恐ろしいのか

私たちは見て
たがいに見られていて
木の葉が風にかさと鳴る
そんな音にさえも
神経を尖らせていて
安定した疑いのなかで
たがいに見られていて

なぜそんなに恐ろしいのか

この日常が壊れるのが
得体の知れないものによって
壊されてしまうのが
何とももったいなくて
だからこそ無意識のうちにも
見てしまって
たがいに見られていて

なぜそんなに恐ろしいのか

聞き耳を立てる壁の噂に
すべての神経を逆立たせて
深夜に蛇口から滴る水滴の音
あるいは一瞬の家鳴り
一部の瑕疵だけで
すべてが終わってしまう気がして
たがいに見張っていて

なぜそんなに恐ろしいのか

鼻をつく妙な臭い
降り積もり塵埃と汚れ
それに触りたくなくて
けれども思わず触ってしまうから
余計に避けてしまって
誰もが遠巻きに
たがいに見張っていて

なぜそんなに恐ろしいのか

何ひとつ知ることのない
隣人の窓のなかを覗いては
すぐに眼をそらして
想像は安易に処理されては
決めつけられてしまって
たがいに見られている
日常の脆さに脅えていて

なぜそんなにも恐れて
壊れることなどないと
知っているのに


(二〇一六年七月執筆)


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