風の噂


誰も私たちについて語るな
語りうるものはそのままに
風にのせて吹き流していけ

風の行方を追ってはならぬ
それがどこに辿り着いても
見知らぬ風として扱うのだ

その場所では、見知らぬ人々が、見知らぬ方法で風を見
ていた。風は知られないままで、ただ吹き過ぎていたの
だが、ある時、そこに遠い誰かの物語を読み取ろうとす
る者があって、それは木の葉や家々の窓を揺るがせた。

その方法は伝染病のように、人々の間に蔓延した。その
ために人々は、風のなかに、あるかどうかもわからない
何かを読み取ることだけが、ただ一つの楽しみとなって
しまい、日々の労苦とそのために生じる喜びも忘れた。

そこにただ一人の者がいて、彼は孤独に歌をうたってい
た。彼は風のなかに歌をのせ、方々に伝えようとしてい
たが、人々は風に露な物語を読もうとするだけだった。

さらに、そうした口さがない噂のために、彼は傷つけら
れた。何が本当で何が嘘なのか、物語に囁かれる人のた
め、彼は過度な無垢さとともに、うたうしかなかった。

誰も私たちのことを語らず
そのまま風に吹かれてあれ
風のために思いが裂かれて
孤独に傷つかれてはならぬ

風のなかひたすら思うのだ
すべての労りと願いと煩い
忘れることのない誰かへの
届くはずない情けのために


(二〇一六年五月執筆)


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