間奏曲


また歩きはじめるまで
あと少し

すべての言葉の谷間にある、吐息のような時を隔てて、
季節がゆっくりと回ってゆく。首筋にかかる生暖かいも
のの存在を感じて、巡る思いを指紋にはりつける。何か
大きなものが変るわけではないが、ただ事実だけがそこ
にある。その事実のために人がいて、私もそこにいて。

きっと何ひとつ変わることはない。何か大きなものが驚
きや絶望や歓喜とともに迎えられる、そんな変化を果た
すことはないのだ。ただ少しずつの、秒針ごとの気づか
れない変化と、前進と後退があるだけで、気づけば花は
咲き、草木は枯れて、その結果だけに人は目を留めて。

さらに思い出は流され、流されながらも抵抗し、それと
ともに石のように頑なとなる。過去という背後にある時
間によって形づくられる、人の現実。その連なりによっ
て現在があって、それによって、心のなかにある小さな
ものだけが揺れ動いて、人は思い出に動かされていて。

あと少し、あとほんの少しで、私は生きてゆくための方
法を思い出すだろう。どこかで習い覚えたはずのそれは
人の波にもまれて置き去りになって、私はその合間に取
り残されている。だが、何か小さなものが私のなかで変
ってゆく。それを感じて、私がここにいるのを感じて。

奏でられていたぶざまな音楽
その不協和音は
いまは止んでいるのだが

また奏でられるまで
あと少し

あとほんの少しの
時間があればいい

私はきっと
幸福だ

この空と地の間にあって
歌うための
明日がある限り


(二〇一六年五月執筆)


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