手紙


私たちは散らばるだろう
私たちの言葉は この広い宇宙のなかを
空間に紙切れが散らばり
私たちがそれぞれに思いを託した
誰かに宛てた手紙がばらばらになって
思い出してもらうために散らばって

けれどもそれを 思い出すのは誰か
それを受け取って 読む者は誰か
思い出されも受け取られもしないだろう
不可能性とともにある絶望のなかで
それでも手紙は書かれ
言葉は費やされ せいいっぱいに
言葉をつくされたた私たちの思いは
散らばりつづけて どこに
行く当てもなく

私たちは散らばるだろう
手紙にこめた思いをたずさえて
離れてしまった誰かとの
約束を忘れずに
それでも散らばってしまう
私たち自身に 夢のなかの遠い記憶のような
懐かしさを感じて

けれどもそれから 私たちは
集まってはまた離れて
そのたびに言葉は苦しい息のように吐き出されて
互いを思っては思いきることも出来ずに閉じこもって
恒星の業火に 思いは焼かれて
その燃えさかる炎のなかで手紙は灰になって
それから離れて
また離れて
互いが遠くなっていって
そのことに無限の淋しさを感じて

私たちはいつか受け取るだろう
散らばった思いが綴られた
遠い昔に書かれて
ぼろぼろになった紙片に書かれた手紙を
それは期待されていたことではあったが
決して予測されていたことではなく

けれどもそれは 私たちの思いを満たして
そこに書かれたはるかな思いを
見えない宇宙線に体も心も貫かれながら
その合間に遠い星雲の爆発を感じて
それが誰からの手紙かもわからないのに
それを思い出すことも出来ないのに
宇宙の暗い闇のなかで
言葉はどの星の光よりも輝いていて

私たちはそれからまた散らばるだろう
幾億年もの間に渡って織り成される離合と集散
その繰り返しのなかで
思いはこめられては放たれて
思い出されては忘れられて
遠く また近くなっては
潤んだ瞳のように星々は瞬いていて

散らばっては集まり また散らばって
そんな思いのような手紙が
いまも星空の合間にあって
それぞれの宛先に向かって
長い旅をつづけていて

けれどもそれを 遠い異星の存在のようになった
私たち自身が見つめていて
宇宙に散らばっては漂う
無数の手紙 その紙切れたちの光景に
人の淋しさの果てのなさを見てしまう
君よ 思い出してほしい
私がこんなにも言葉をつくして
君に遠い憧れを綴った手紙を
書いてしまったことを


(二〇一六年四月執筆)


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