春の歩き方


暖かくなってきた日に
川原の遊歩道を歩く
水の少ないこの川は
護岸工事でますます水量が減り
晴れの日がつづくと干上がって
水の流れが途切れる箇所がある
誰もめったに見せることのない奥底を
川床を簡単に見せてしまうあさはかさ
駅前の橋にさしかかって階段を下りる
怪人が捕獲された降り口から離れて
芝生が敷きつめられた堤を歩く
俺は生き方というものを考えたことがなかった
ただその場しのぎで
気ままに歩いてきただけだ
友人の服部剛が俺を連れ出してきてくれた時のことを思うと
結局何もかもが人任せだったのだと思えてくる
川の水はあまりにも少なく
晴天がつづくと残ったわずかな水も
腐ってしまうのではないかと思えてくる
だがどこかで
遠くに見える山の間で
この川をつくりだす水が
少しずつ湧き出ているはずだ
乾く前に暖かさが来て
やがては暑さを感じることになる
いまやこの川原を歩く俺こそが怪しい人だ
身に覚えのない罪への
罰に脅える者のように後ろめたい
セキレイが埋められた石の間を
わずかな水であってもそれをよけるように跳ねる
俺には生き方など何もなかった
わずかな水であってもそれを求めて
飢えたように歩いていただけだ
友人の服部剛も気ままに生きた男だったが
いまや妻をめとって一子をもうけた
俺も適当な誰かを見繕って
この川原をともに歩くべきなのだろうが
暖かい季節になっても
そんな歩き方を俺は知らない
いまや川は乾きの淵にあり
そこに埋められた石を濡らすのもやっとの思いだ
この暖かさが暑さに変り
それにともなって俺の血が逆流したとしても
川の流れが変ることはない
ただ乾くか
持ちこたえて
水を増やすか
それだけだ
人工的につくられた詩情のない川の堤から
遠い山を見上げると
山の手前に火葬場があって
その煙突が立っているのが見える
水を乾かす熱
人間を焼く煙が立ち上っているのが見える


(二〇一六年三月執筆)


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