対流


いつか吹いたのと同じように風が吹き
それがこの平原をゆっくりと渡る
私たちはそれぞれに
老いも若きも一瞬のうちにあり
誰もが誰かの思い出を共有し
それが集まってここにいる
人は一人でいるだけで全人類とともにあり
その膨大な記憶を共有しているに等しい
風のひと吹きで人は生まれ 死ぬ
同じようにこの宇宙は一瞬でつくられ
ふと気づけば私たちはここに立っていたのだ
百億年も一年も同じ時
私という一人は百億の民に等しい
私の思い出があなたの思い出になり
あなたの思い出が私の思い出となる
この風が吹く一瞬に生きては 死ぬ
宇宙の果てしない膨張と収縮
光のまたたきと闇の深慮もまた同じ
すべては永劫にして一瞬である一つ
この風が渡るそのわずかな時の間に
宇宙はつくられ星ぼしが生まれた
私はあなたを思い出し
あなたは私を思い出す
風は平原を吹き渡り
それぞれの思い出を交換するように
私とあなたの間を対流する
私たちは忘れるためではなく
思い出すために ここにいるのだ


(二〇一六年三月執筆)


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