傍観


私たちは見過ごしていた
すべてを 私たち自身の命運でさえも
また私たちは見過ごされていた
すべてから 私たちが生きる生からも
見過ごされては 通り過ぎられて
存在しないもののように扱われた
私たちは見過ごされて
また自分たちでも見過ごして
なんの考えもなく眺めては 眺められ
見送られるものとして
ただありつづけていた
星はいちどたりとて
私たちの上で輝くことはなく
風は私たちではないどこかの誰かの
噂話をのせて吹き過ぎるだけであった
そうしたなかで
私たちはどこまでも無垢だった
無垢であるために
私たちは動けず
ただ眺め 眺められるものとして
ありつづけるしかなかった
私たちは無垢であるために強く
そのために どうしようもなく弱かった
時に悪意がやってきて
そんな私たちの罪のない無垢を
罰しようと鋭い爪を研いだ
だが私たちはそれが私たちを包む
優しい掌であると無邪気に信じ
愚かにもそれに抱き取られるのを待っていた
すべての街灯が夜のなかで
滲む涙のようにぼんやりと点りはじめる頃
ようやく私たちはことに気づくが
いつもと同じように
それは遅すぎたのだ
それでも私たちは
無垢であることをを信じた
この世のすべての記憶が
夜の壁につぎつぎと映っては消え
人々がそれらを片端から忘れてゆく間に
そのすべてを目に収めようと 私たちは務めた
それでも私たちは見過ごし
すべてから見過ごされ
傍らで通り過ぎられるものとして
ありつづけていた
すべては変らず
眺めては 眺められるものとして
白い汚れとともに私たちはいた
どこか遠い地平線の向こうから
生まれたばかりの赤子のような泣き声が聞こえ
私たちはそれに耳をすまし
その生長を見守ろうとした
あふれすぎた無垢は
やがて失墜へと至る
赤子にすらも追い越される日が迫っても
私たちは見過ごされ
見送られるものとして
ここにありつづけるしかなかった


(二〇一六年二月執筆)


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