落手落葉


陽が落ちる
葉が落ちる
その中に埋もれて
誰かの手が落ちている
手首から先を見事に切り離されて
隠れるように静かに余生を送っている
枯れた手の来歴は誰も知らない
気ままな散歩の途中で見つけたとしても
放っておいてあげた方が良い
手は
ひとりでのんびり暮らしたいのだ

そして誰かの歌が聴こえる
ひとりきりの 秋の夕暮れの歌
鳥は無益な羽ばたきをやめ
枝の上でひっそりと休む
枯葉の中の手は
時に這い
時に息を潜めて固まる
寒さを強める風に吹き飛ばされないように
地虫の囁きにくすぐられながら
華やかな過去の夢を見る
陽が落ちて
色を失くした庭の中
手は膨大な自由とともに自らの使命を忘れる

この季節になると手の落としものが増える
通勤通学の途上では
手を失くした人々が淋しげに歩く
だが間違っても落ちた手を
持ち主のところに届けに行こうなどと思ってはいけない
手は落としたのではなく
置いてきたのでもなく
そこに 枯葉の下に
捨ててきたのだから
手は 人の奴隷として働かされることも泣く
ましてや手錠をかけることなどもう出来ず
秋の うらぶれた色彩を点綴しながら
ただ手として
一個の手として初めて独立する
ここで手の時は止まる
つぎの春が来るまで

道傍に 枯葉の下に
手は息を殺してうずくまっている
想像力のかたまりとなって
たまたま通りかかった人の
足首をつかむことを夢想している
落ちた葉と
なおも落ちつづける葉は手を巧妙に隠し
それは植物の優しさとして手の自由を守っている
年老いた誰かの歌
生を白く燃やすだけの意味のない旋律
それを聴きながら
夕暮れの下
手は手としての物思いにふける
さて
今夜は誰の首をしめようか


(二〇〇〇年十月執筆)


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