馬の黙示


時の果てへと
まっすぐに進む一本道
今日も人はこの道を歩いているが
もはや夏は去り
いまや秋 である
街路樹は裸の枝を見せ始め
その枝には馬の屍骸が
吊り下げられている

僕も 人とともに
この道を歩いているのだが
騎馬民族による大いなる侵略も
遠い過去のこととなり
いまや秋 である
あの馬は何だろうか
あの街路樹の枝に吊られた馬は
どんな言葉を背負っているのだろうか
だが人は見ない
人はただ明日という名さえ与えられていない
時の果てへと
歩きつづけるだけである
僕は立ち止まる
立ち止まって
樹上の馬を
見上げる

いまや秋
遅刻した蝉が無惨にも落ち
何が恥ずかしいのか
夕陽は赤く
ただ赤く染まっている
街路樹に吊られた馬は
その眼の奥に
どんな絶望を見たのか
吹かない風に吹かれて
首に巻きついた荒縄で
しっかりと枝に抱きついている
僕は立ち止まって
見ているのだが
この馬の中の
何を見ぬけば良いのか
わからないでいる

いまや秋
進化論は敗北した
僕は馬を見上げ
人はただ歩いている
あちらに行ってしまった者は
隕石の到来を夢見ている
こちら側で人は 相変らず
岩石の思い出にすがりついている
そして 樹上の馬の屍骸から
糞尿のような血が
したたり落ちてくる
いまよりも さらに恐ろしい時を
創造するため
血は道の上にたまる
僕は 馬とその上の空を
見上げる
天高く
馬吊られる
秋である


(一九九六年九月執筆)


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