たどりつくと

――M・Tに

たどりつくと
いつもそこには
川が横たわっていた
のではなく
問題は場所ではなく
僕の心や身体の
状態で
たどりつくと
いつも僕は
つかれきっていた
飢えて
渇いて
さらにやせて
眼の前を
川がとうとうと流れるのを
ぼんやりと見ているだけだった
僕はいつでも
遅刻する者であり
尾行する者であり
何もかもが
僕にとっては遅すぎたのだ
この夜を慰めてくれる
歌でさえ
四半世紀も前に
誰かによって
歌われてしまっていた
たどりつくと
いつも僕は
つかれきっていた
飢えて
渇いて
さらにやせて
その度に
世界はふとる
ような気がした
それでも僕は
この夜を突きぬけるための
星の光を求めて
七つの海を越えて
七つの謎を超えて
何度でもたどりつくだろうが
その時も 僕は
飢えと
渇きで
つかれきっているに違いないと
思ったものだった
だが
とある
名もない一日
いつものように 僕が
たどりつくと
なんということであろうか
それは静かな驚愕であった
春の雪のように淡い
恋が
僕の上に降ってきたのだ


(注)冒頭三行は佐野元春の
  「Rock'n'Roll Night」から。


(一九九六年七月執筆)


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